今宵、バッハと鰤大根
遠距離再婚の夫の鰤大根は文句なく美味かった。
鰤大根を一口食べたら、日本酒が飲みたくなった。ちょうど冷やしてあった「城川郷」を飲みながら、静かな音楽を楽しむ。
バッハの無伴奏だなあと思う。
「いいね、この曲も」というと、娘が「うん、いいよね〜」と答える。今夜の選曲も当然、クラシックファンである遠距離再婚の夫。私たちの賞賛の言葉に、ゆっくりと満足そうに頷く。
「チェロの音ってくつろぐよね〜」といいながら冷酒をもう一杯含むと、鰤大根をがんがん食べてる娘も「穏やかな気持ちになるよね〜」と応える。
ふと見ると、夫が戸惑ったような微笑みを浮かべている。そして、おもむろにこう言った。
「これはチェロではありません」
私と娘は顔を見合わした。チェロではありませんって、アナタ、これはどう見てもどう聞いても、バッハの無伴奏だし、チェロ独特の鷹揚な響きではありませんか。
「チェロじゃないってどういう意味?」
「これはサキソフォーンです」
私と娘はまた顔を見合わした。今日の夫は、早くも冷酒に酔っているのだろうか。いくら私らが音楽素人やとはいえ、これがサックスの音であるかどうかぐらいは分かりまっせ、お父ちゃん。どう聞いても、チェロ以外の何者…いや、何音でもないではありませんか、お父ちゃ〜ん。
ここのところ彼は異様に忙しいし、まあ、夫にもちょっとした勘違いってのはあって当然。穏やかに、恥をかかないように、間違いをそっと優しく訂正してあげねば〜…と、妻(@内助の功タイプ)は思ったわけだ。
「ははは、さすがのアナタも大間違い!こんなサックスの音なんてありえんし〜はははは!」
夫はさらに困った顔をする。
「でもこれは正真正銘サキソフォーンです」といい、娘に「このCDのジャケットもってきてごらん」という。半信半疑、ジャケットを取りに行った娘がいう。「だってほら、ここに…Celloって書いてあるよ」
ジャケットを手に取った夫が答える。「うん、でもほら、この下に小さい字で書いてあるでしょ。Baritone-Saxophneって。この楽器箱もほら、チェロを入れる形じゃないでしょ。この曲は、バリトンサックスという楽器で演奏してるんです」
いや〜ビックリした。サックスってこんな音も出せるのか。
ちなみに、この後、同じ曲をチェロで弾いてるのを聞かせてもらったら、たしかに全く違った音だったので、二度びっくりした。どうなんや、私らの耳は〜
「この曲が、バッハの無伴奏協奏曲だと分かっただけで、自分ではエライと思ってたのに、サックスだったなんて落とし穴があったとは〜」
「あ、いえ、この曲はバッハの無伴奏組曲です」
「ま、だいたい当たっとるようなもんやですか」
「協奏曲は、共に奏でるわけですから、楽器が他にないといけない。さすがにアナタの耳で聞いても、楽器が一つであるというぐらいは分かるはずです」
うっ…今日の夫は、反論まで冴えている。
本来のチェロの響きとは違った、バリトンサキソフォーンの、バッハ作「無伴奏組曲」を聴き直す。なんとまあ味わい深い音だろう。
そして、バッハと鰤大根…
なんと予想外の取り合わせだろう。
そんなこんな、我が家のチグハグな夜は豊かに更けていくのでありました。
鰤大根を一口食べたら、日本酒が飲みたくなった。ちょうど冷やしてあった「城川郷」を飲みながら、静かな音楽を楽しむ。
バッハの無伴奏だなあと思う。
「いいね、この曲も」というと、娘が「うん、いいよね〜」と答える。今夜の選曲も当然、クラシックファンである遠距離再婚の夫。私たちの賞賛の言葉に、ゆっくりと満足そうに頷く。
「チェロの音ってくつろぐよね〜」といいながら冷酒をもう一杯含むと、鰤大根をがんがん食べてる娘も「穏やかな気持ちになるよね〜」と応える。
ふと見ると、夫が戸惑ったような微笑みを浮かべている。そして、おもむろにこう言った。
「これはチェロではありません」
私と娘は顔を見合わした。チェロではありませんって、アナタ、これはどう見てもどう聞いても、バッハの無伴奏だし、チェロ独特の鷹揚な響きではありませんか。
「チェロじゃないってどういう意味?」
「これはサキソフォーンです」
私と娘はまた顔を見合わした。今日の夫は、早くも冷酒に酔っているのだろうか。いくら私らが音楽素人やとはいえ、これがサックスの音であるかどうかぐらいは分かりまっせ、お父ちゃん。どう聞いても、チェロ以外の何者…いや、何音でもないではありませんか、お父ちゃ〜ん。
ここのところ彼は異様に忙しいし、まあ、夫にもちょっとした勘違いってのはあって当然。穏やかに、恥をかかないように、間違いをそっと優しく訂正してあげねば〜…と、妻(@内助の功タイプ)は思ったわけだ。
「ははは、さすがのアナタも大間違い!こんなサックスの音なんてありえんし〜はははは!」
夫はさらに困った顔をする。
「でもこれは正真正銘サキソフォーンです」といい、娘に「このCDのジャケットもってきてごらん」という。半信半疑、ジャケットを取りに行った娘がいう。「だってほら、ここに…Celloって書いてあるよ」
ジャケットを手に取った夫が答える。「うん、でもほら、この下に小さい字で書いてあるでしょ。Baritone-Saxophneって。この楽器箱もほら、チェロを入れる形じゃないでしょ。この曲は、バリトンサックスという楽器で演奏してるんです」
いや〜ビックリした。サックスってこんな音も出せるのか。
ちなみに、この後、同じ曲をチェロで弾いてるのを聞かせてもらったら、たしかに全く違った音だったので、二度びっくりした。どうなんや、私らの耳は〜
「この曲が、バッハの無伴奏協奏曲だと分かっただけで、自分ではエライと思ってたのに、サックスだったなんて落とし穴があったとは〜」
「あ、いえ、この曲はバッハの無伴奏組曲です」
「ま、だいたい当たっとるようなもんやですか」
「協奏曲は、共に奏でるわけですから、楽器が他にないといけない。さすがにアナタの耳で聞いても、楽器が一つであるというぐらいは分かるはずです」
うっ…今日の夫は、反論まで冴えている。
本来のチェロの響きとは違った、バリトンサキソフォーンの、バッハ作「無伴奏組曲」を聴き直す。なんとまあ味わい深い音だろう。
そして、バッハと鰤大根…
なんと予想外の取り合わせだろう。
そんなこんな、我が家のチグハグな夜は豊かに更けていくのでありました。
- 2008.11.30 Sunday
- スパイシーな日常
- 14:27
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